ロバの目
第18話 勇気
「せんせー私頑張る」
その声がとても私の頭の中でダブり共鳴した。
今は、1学期期の末試験が始まろうとしている。
いつものように社会科の質問が連日連夜続く。
平日は中学生をメインにしているから、高校生の質問はどうしても土曜日や日曜日になってしまう。
「ロバさん、いつなら質問できる?」
「土曜の晩か、日曜日やな。日曜だと、質問が朝からあるから・・・・・夜の7時からなら1時間できるぞ。」
「わかった、その時で!」
という具合だ。
すまない。高校生諸君。
時間は限られているのだ。
時間だけではない。
何をするにしたって、「限り」というものがある。
私が、大学3年の夏。
大学の前期試験が全て終わった。
同時に、私の2週間の不眠不休の戦いも終わった。
この開放感はたまらない。思わず、みんなでガッツポーズ。
私は早速、旅の準備にとりかかる。
とは言うもの、リュック1つで片付くほどの荷物。
そう時間はかからない。
時間もかからなければ、お金もかからない。
旅は飛行機なんて使わない。
もっぱら、船か電車かヒッチハイク。
沖縄から3日かけてバングラデシュのダッカに到着した。
陸に着くと、まだ波に揺られているような激しい「陸酔い」に必ずあう。
そこで登場するのが「酔い止め薬」だ。私は乗り物酔いはしたことが無い。
いつも陸酔いだ。
「酔い止めを陸地で飲むなんて・・・・。なんて苦労な旅だ。」
そう思う人もいるだろう。
しかし、私は面白い。面白いというよりワクワクする。
薬を飲むとき、いつも思う。
「あー。また始まった。今回の旅はどんなことが待ってるんだろう」
そう思うともっと楽しくなる。
今回はバングラデシュの農村地域の生活飲料水確保の工事と調査をするために来た。
優しく言うと「村に井戸を掘る」っていうこと。
水道なんてない。
別に給料が支給されるわけではない。
楽しいから行く。それだけ。
実は私の旅にはいつも2、3人のパートナーがいる。
しかし彼らは、いつも決まって飛行機だ。
行き帰りは別行動。
その分、誰にも気兼ねすることなく自由奔放で快適な旅が満喫できる。
別に彼らが嫌いという訳ではない。
村の公民館を宿舎に現地スタッフと合わせて、総勢11名。
私の役目は村民に井戸の扱い方の指導と健康調査。
井戸を掘り始めて5日。
調査と作業は無事に期限以内に完了した。
この地域は今まで、生活飲料水を得るために隣の集落なで行かなくてはならなかった。
隣の集落といっても10kmだ。
この村は山間部に位置し、険しい山道を進まなくていけない。
女性たちは日の出前に家を出発し、3時間かけて家に戻る。
しかも、汲んできた水はとても飲める水とは言いがたい。
茶色く濁り、不衛生だ。
日本みたいに家庭に蛇口があり、ひねれば水が出るなんていう家は、ここにはない。
そんな村に井戸が出来た。
村人は大喜び。
大人も子どもも井戸の水を掛け合い喜んでいる。
村の井戸掘りが終わっても、私は村に滞在した。
私には理由があった。
正確にいうと理由ができてしまった。
「村に井戸を掘るために日本人が来る」
その情報を聞きつけて1人の女の子が私たちを訪ねてきた。
彼女の名前はアルー。
アルーは近くの街で日本語を学んでいる大学生だった。
「日本の大学で農業や工業の技術を学びたい」
だから日本語を学びたいと言っていた。
大きな夢のために今、何をすべきかを模索した結果の答えだった。
その日から毎日、私とアルーの日本語生活が始まった。
最初は私が聞き取れないほど、ひどい訛りだった。
しかし、彼女は頑張った。
1週間後、彼女の話の内容は理解できるほどに上達した。
私が村を発つ前日、アルーは私に言った。
「家族は日本語の勉強など無理だと私に言いました。でも私は日本で勉強したいです。」
「私は日本で勉強して、村のために頑張りたいです。」
大きな瞳を私に向け、彼女はそう言った。
その瞳には強い意志が宿っていた。
翌日、ダッカ行きのバスに乗り込む時、アルーが私に言った。
「せんせー私頑張る」
「元気でいて下さい」
大きく手を振りながら彼女は叫んだ。
その姿を今でも鮮明に覚えている。
満面に笑みを浮かべ、見送るアルー。
私も大きく手を振りながら、小さくなっていくアルーを見つめていた。
それから1年後。
アルーはバングラデシュの大学を卒業し、大阪の大学に見事合格した。
実はアルーは私より2歳年上なのだ。
私は今でも覚えている。
「せんせー頑張る」
あの言葉を思い出すと、私も負けられないと奮起させられる。
必死に、一つのことを頑張る姿というものは、時に他人に勇気を与える。
そして、自分がもっとも輝く瞬間だ。
今日より明日を輝かせるために、我武者羅に今を生きよう。
さあ!期末試験もがんばれよ!
以上!
第18話 勇気
「せんせー私頑張る」
その声がとても私の頭の中でダブり共鳴した。
今は、1学期期の末試験が始まろうとしている。
いつものように社会科の質問が連日連夜続く。
平日は中学生をメインにしているから、高校生の質問はどうしても土曜日や日曜日になってしまう。
「ロバさん、いつなら質問できる?」
「土曜の晩か、日曜日やな。日曜だと、質問が朝からあるから・・・・・夜の7時からなら1時間できるぞ。」
「わかった、その時で!」
という具合だ。
すまない。高校生諸君。
時間は限られているのだ。
時間だけではない。
何をするにしたって、「限り」というものがある。
私が、大学3年の夏。
大学の前期試験が全て終わった。
同時に、私の2週間の不眠不休の戦いも終わった。
この開放感はたまらない。思わず、みんなでガッツポーズ。
私は早速、旅の準備にとりかかる。
とは言うもの、リュック1つで片付くほどの荷物。
そう時間はかからない。
時間もかからなければ、お金もかからない。
旅は飛行機なんて使わない。
もっぱら、船か電車かヒッチハイク。
沖縄から3日かけてバングラデシュのダッカに到着した。
陸に着くと、まだ波に揺られているような激しい「陸酔い」に必ずあう。
そこで登場するのが「酔い止め薬」だ。私は乗り物酔いはしたことが無い。
いつも陸酔いだ。
「酔い止めを陸地で飲むなんて・・・・。なんて苦労な旅だ。」
そう思う人もいるだろう。
しかし、私は面白い。面白いというよりワクワクする。
薬を飲むとき、いつも思う。
「あー。また始まった。今回の旅はどんなことが待ってるんだろう」
そう思うともっと楽しくなる。
今回はバングラデシュの農村地域の生活飲料水確保の工事と調査をするために来た。
優しく言うと「村に井戸を掘る」っていうこと。
水道なんてない。
別に給料が支給されるわけではない。
楽しいから行く。それだけ。
実は私の旅にはいつも2、3人のパートナーがいる。
しかし彼らは、いつも決まって飛行機だ。
行き帰りは別行動。
その分、誰にも気兼ねすることなく自由奔放で快適な旅が満喫できる。
別に彼らが嫌いという訳ではない。
村の公民館を宿舎に現地スタッフと合わせて、総勢11名。
私の役目は村民に井戸の扱い方の指導と健康調査。
井戸を掘り始めて5日。
調査と作業は無事に期限以内に完了した。
この地域は今まで、生活飲料水を得るために隣の集落なで行かなくてはならなかった。
隣の集落といっても10kmだ。
この村は山間部に位置し、険しい山道を進まなくていけない。
女性たちは日の出前に家を出発し、3時間かけて家に戻る。
しかも、汲んできた水はとても飲める水とは言いがたい。
茶色く濁り、不衛生だ。
日本みたいに家庭に蛇口があり、ひねれば水が出るなんていう家は、ここにはない。
そんな村に井戸が出来た。
村人は大喜び。
大人も子どもも井戸の水を掛け合い喜んでいる。
村の井戸掘りが終わっても、私は村に滞在した。
私には理由があった。
正確にいうと理由ができてしまった。
「村に井戸を掘るために日本人が来る」
その情報を聞きつけて1人の女の子が私たちを訪ねてきた。
彼女の名前はアルー。
アルーは近くの街で日本語を学んでいる大学生だった。
「日本の大学で農業や工業の技術を学びたい」
だから日本語を学びたいと言っていた。
大きな夢のために今、何をすべきかを模索した結果の答えだった。
その日から毎日、私とアルーの日本語生活が始まった。
最初は私が聞き取れないほど、ひどい訛りだった。
しかし、彼女は頑張った。
1週間後、彼女の話の内容は理解できるほどに上達した。
私が村を発つ前日、アルーは私に言った。
「家族は日本語の勉強など無理だと私に言いました。でも私は日本で勉強したいです。」
「私は日本で勉強して、村のために頑張りたいです。」
大きな瞳を私に向け、彼女はそう言った。
その瞳には強い意志が宿っていた。
翌日、ダッカ行きのバスに乗り込む時、アルーが私に言った。
「せんせー私頑張る」
「元気でいて下さい」
大きく手を振りながら彼女は叫んだ。
その姿を今でも鮮明に覚えている。
満面に笑みを浮かべ、見送るアルー。
私も大きく手を振りながら、小さくなっていくアルーを見つめていた。
それから1年後。
アルーはバングラデシュの大学を卒業し、大阪の大学に見事合格した。
実はアルーは私より2歳年上なのだ。
私は今でも覚えている。
「せんせー頑張る」
あの言葉を思い出すと、私も負けられないと奮起させられる。
必死に、一つのことを頑張る姿というものは、時に他人に勇気を与える。
そして、自分がもっとも輝く瞬間だ。
今日より明日を輝かせるために、我武者羅に今を生きよう。
さあ!期末試験もがんばれよ!
以上!
# by taku_kuma_2 | 2008-07-04 03:16 | ロバ吉